「越中おわら風の盆」は富山市八尾町に秋の訪れを告げる行事。編み笠を目深に被った男女が、哀調ある音色を奏でる胡弓や三味線、越中おわら節の唄に合わせて、情緒豊かに町を流す様子はとっても幻想的。そんな「おわら風の盆」の歴史と見どころを紹介します。
目次
「おわら風の盆」の歴史
「おわら風の盆」の起源ははっきりしないですが、江戸時代、元禄年間(1688年〜1704年)といわれています。おわらの由来は「おわらひ(大笑い)」という言葉を入れて町内を練り廻ったのがいつしか「おわら」と唄うようになったというものや、豊年万作を祈念した「おおわら(大藁)」に由来するなど諸説あります。
二百十日の前後は、台風到来の時節。昔から収穫前の稲が風の被害に遭わないよう、豊作祈願が行われてきました。その祭りを「風の盆」というようです。また、富山の地元では休みのことを「ボン(盆日)」という習わしがあったと言われます。種まき盆、植え付け盆、雨降り盆などがあり、その「盆」に名前の由来があるのではないかともいわれています。
「おわら風の盆」2023年の開催日程
9月1日(金) 17:00~23:00
9月2日(土) 17:00~23:00
9月3日(日) 17:00~23:00
新型コロナ前に行われていた8月20日から30日にかけての前夜祭は2023年も中止されます。また「おわら演舞場ステージ」も2023年は中止されます。前夜祭に替わって、おわら風の盆プレイベント おわらステージ 2023夏が8月25日(金)〜30日(水)にかけて開催、11の支部と富山県立八尾高校の郷土芸能部の生徒さんが踊りを披露してくれます。
男踊り
「おわら風の盆」の唄
おわらの歌詞の基本は他の民謡と同じく七、七、七、五の26文字で構成されています。そして最後の5文字の前に必ず「オワラ」と入ります。
この26文字の歌を「正調おわら」または「ひらうた」といい、他に、この正調おわらの頭に5文字をかぶせて31文字として唄う「五文字冠り」や七、七、七と言葉を重ねていき最後に5文字で結ぶ「字余り」などがあります。これら「五文字冠り」や「字余り」は唄い手の力量が試されるおわらの味わいどころです。
「おわら風の盆」の楽器
おわらに欠かせない役割を担っているのが唄と楽器で奏でる「地方」です。地方には「唄い手」「囃子」「三味線」「太鼓」「胡弓」があります。
三味線が出を弾き、胡弓が追います。太鼓が軽く叩かれ調子を上げると囃子が唄を誘います。唄は甲高い声で唄い出し息継ぎなしに詞の小節をうねらせ、唄は楽器に応え、楽器は唄に応えます。
唄が終わると「合いの手」と呼ばれる楽器だけの間奏曲が奏でられます。唄の旋律とまったく違う曲を演奏することは民謡では珍しいことといわれています。
「おわら風の盆」の三つの踊り
おわらは他の民謡と同様に、はじめは唄だけでしたが、そのうち楽器が入り、踊りが入ってきました。時代と共に踊りも変わり、現在は、「豊年踊り」(旧踊り)、「男踊り」、「女踊り」(四季の踊り)と3通りの踊りがあります。
豊年踊り
古くから踊られる踊りで、種まきや稲刈りといった農作業の動きを手や指先を巻くように舞踊の要領で表現しています。男踊り、女踊りを「新踊り」と呼ぶことから豊年踊りは「旧踊り」と呼ばれることもあります。
男踊り
男踊りは、男性の舞台用として振り付けられた踊りです。日本舞踊の若柳吉三郎によって振り付けられ、素直で素朴な直線的力強さの中にしなやかさを持つ魅力的な踊りで農作業の所作を表した踊りです。
女踊り
女踊りも女性の舞台用として振り付けられた踊りです。「四季踊り」ともいわれ、画家であり俳人でもあった小杉放庵が八尾の春夏秋冬を詠った「八尾四季」のために振り付けられたのが最初で、その後夏の河原で女性が蛍取りに興じる姿を表した一連の女踊りが完成しました。男踊りと同じく若柳吉三郎の振り付けだけに日舞の艶めきがあります。
「おわら風の盆」11の町の特徴
旧町と呼ばれる「東新町、西新町、諏訪町、上新町、鏡町、東町、西町、今町、下新町、天満町」と井田川をはさんだ対岸の「福島」を併せた合計11の町で行われる「おわら風の盆」。それぞれの町の特徴を紹介します。
東新町
旧町の中で最も高台に位置する町。この町の少女だけが、赤いたすきがけの田植え姿(早乙女姿)の素朴な衣装を着て踊ります。かつて八尾町の主産業であった、養蚕の蚕を奉った蚕宮、若宮八幡宮があり、この境内で行われる前夜祭は独特の風情があります。
西新町
東新町と同じく高台に位置し、新しい屋敷引きがなされた事から「新屋敷(しんやしき)」と呼ばれます。「おわら風の盆」では、通りでは勇猛な男踊りが女踊りの艶やかな浴衣色と相まって、青年男女らしさをいっそう強調します。
諏訪町
「日本の道百選」に選ばれた町。坂のまち風情を色濃く残していて、東新町へと続く緩やかな坂道にボンボリが並び、狭い家並みにおわらの音曲が反響し、道の両脇を流れる「エンナカ」と呼ばれる用水の水音と相まって、おわらにとって最高の舞台を演出します。
鏡町
かつては花街として賑わった地域。女踊りには芸妓踊りの名残もあって、艶と華やかさには定評があります。おたや階段下がメイン会場になっていて、その会場で行われる舞台踊りや輪踊りをおたや階段に座って鑑賞するスタイルが有名です。
上新町
旧町の中で一番道幅が広く、商店が多く立ち並んでいます。商店街の広い道幅を最大限に利用した「大輪踊り」は観光客も気軽に参加することができて、「見る」だけでなく、「参加」して「おわら風の盆」を楽しめます。
東町
旦那町と呼ばれた町。おわらの名手江尻豊治や初代おわら保存会会長川崎順二を生んだ町でもあります。当時の遊び心が衣装や雰囲気から伺うことができます。「越中おわら中興の祖」と呼ばれた川崎順二の生家が現在は「富山市八尾町おわら資料館」となっています。
西町
東町とともに旦那町として栄えた町で、老舗の旅籠や造り酒屋、呉服屋、禅寺や金比羅堂など風情たっぷりの建物が並んでいて、当時の面影を残しています。昼間に行われる、禅寺坂を下った先にある禅寺橋で石垣をバックにした輪踊りには独特の風情が感じられます。
今町
八尾町の古刹聞名寺の正面に位置する町です。東西両町の中心に位置する事からかつては「中町(なかまち)」と呼ばれていました。青年男女が絡む男女混合踊りはこの町が取り入れいたものと伝えられています。
下新町
春の八尾曳山祭では曳山が奉納される八幡社のある町です。風の盆の期間には境内に舞台を設け、特に夜はこの舞台での踊りを中心に行事が行われます。鳥居を背景に色鮮やかな衣装が夕闇に照らされて踊る姿は幽玄な趣を醸し出します。朱色を基調とした女性の浴衣が特徴的です。
天満町
東西北を川に囲まれた町で、かつては川窪新町と呼ばれていました。おわらの唄の途中に「コラショット」と囃子を入れて、音程を下げて力強く歌う「川窪おわら」と呼ばれる独特の歌い方があります。
福島
旧町から移り住んだ人たちを中心として結成された最も新しい支部で、11の支部の中で最大の人口を誇ります。風の盆期間中は駅横の特設舞台でステージ踊りが実施されます。また、大人数で広い通りを流す福島独特の町流しや上下線の始発列車を見送る「見送りおわら」も好評です。
まとめ
「越中おわら風の盆」の見どころと2023年の開催スケジュールを紹介しました。「演舞場ステージ」は2023年も開催されないですが、11ある各町内でそれぞれ行われるお町流し・輪踊りを楽しむのは「越中おわら風の盆」の本来の姿。異なる町の踊りをたっぷり楽しんで非日常を味わってみてはいかがでしょうか。